|
 |
 |
たった13回しか行なわれないから『十三夜』と題したこの連載もこの章で終わりである。2004年の10月の半ばからリハーサルは始まった。リハーサル初日、スタジオに全員集合し、舞台監督・江坂の発声で恒例のスタッフ紹介が行なわれた。紹介された者はツアーに対する抱負を語り自己紹介するのも恒例である。スタッフには目立ちたがり屋、恥ずかしがり屋、友達多いやつ、彼女いない暦数年などと、さまざまな個性があるが、小さい声でしょぼしょぼと話すのでは現場では仕事にならない。大声を出して自己紹介する。全員の紹介が終わり、最後にツアー責任者・プロデューサーから一言いただきます! と江坂から指名された。もともと声は小さい方ではないが大きな声で「たった13回のコンサート。初日が終われば、残りはあと12本とまるでカウントダウンをするがごとくのツアーになる。1本1本を愛おしむような気持ちでツアーに出たい。最終日の武道館公演の終了時には、最高の笑顔で皆さん一人一人と握手をしたい」と自己紹介をさせてもらったが、今日がその最終日。
僕は、コンサートのプロデューサーではあるが、ステージを語ることはしない。ステージの印象はライブを観た人のものであるという信条があるからで、第一夜の市原市民会館から十二夜の浜松まで直接ライブの内容に触れてきていない。この方針で最後までいっていいものかどうかについて考えてみた。もともとこの連載企画は、布袋の会員制のネットワーク・サイト『ビートクレイジー』の岡崎堂のコーナーで発表するものであったので、『スコルピオ・ライジング・ツアー/岡崎堂版』と同じ書き方ですすめてきたが、ライブの主役は今井美樹である。考えてみれば、BCメンバーは全員布袋のライブには集合するであろう。だから、いちいちあの曲がどうだった照明がああだった熱い夜だった感動が渦巻いたと書き記すことはないのだが、でも、今井美樹のライブには参加していないメンバーもいることだろうから、最後の武道館だけは、ライブレポートをお届けすることにする。僕は音楽ライターではないので、レポーターは増田勇一氏にお願いした。今井美樹さんから、是非今井ホームページにも掲載をしてほしいとの要望をいただいたので、この『十三夜』は、今井美樹ホームページにも掲載されているが、なにしろレポーターはB.C.系のライターである。どうしても布袋寄りのレポートになってしまっていることはお断り申し上げる。
****
2004年12月13日、午後9時44分。超満員の観衆を飲み込んだ日本武道館のステージ中央に、しっかりと抱き合う2つの影があった。バンドメンバーたちとオーディエンスの拍手と歓声に包まれながら、この夜の主人公ふたりは、きっとそこで至上の幸福感を噛み締めていたに違いない。そんな場面をもって、実に4年ぶりとなる今井美樹の全国ツアー、『IMAI MIKI DREAM TOUR 2004』の千秋楽は幕を閉じた。
11月に発表された彼女の最新アルバム『She is』が、我らが布袋寅泰の全面参加によるものであること、そしてその事実を彼自身が非常に意味の大きなものとしてとらえていることは、すでにB.C.会報vol.008の掲載のインタビューを噛み砕いているはずの読者には敢えて説明するまでもないだろう。そして実際、そのときの発言からも察することができたように、今回のライブパフォーマンスには興味深い見どころがたくさんちりばめられていた。
なにしろここ何年もの間、僕らはほぼ、ステージの中央に立っている布袋の姿しか観ていない。というか、そうした姿以外に目にしたことがない人のほうが、今や多数派ということになるのだろう。その彼が“他の誰かのために、ギターを弾くことに徹する”場面と対峙できるというだけでも、新鮮に感じられないはずがないのだ。で、実際、約2時間半におよぶそのステージは、実に新鮮な刺激に満ちたものだった。が、同時に僕自身が痛感させられたのは、“布袋はやはり布袋である”というごくアタリマエの事実でもあった。冒頭部分で“主人公ふたり”なんて表現をしてしまったが、事実、布袋は、物語のヒロインである今井美樹に対する助演にとどまらない存在感を漂わせていたのである。
語弊は承知のうえだが、布袋は歌い手にとって、実に“やりにくい相手”といえる。なにしろ歌う側からすれば、全面的に信頼できる存在であると同時に、自分の存在を塗りつぶされてしまうほどに強烈な色を発散してしまうのだから。ごくさりげないはずの彼の一挙手一投足が、そのままロックンロールを象徴するアクションに見えてしまうのだから。さらにはその饒舌なギターワークで、並大抵の人間以上に“歌って”しまうのだから。
ステージでの立ち位置がどこであろうと主役になってしまう男、それが布袋であり、この夜もその事実に変わりはなかった。で、だからこそ同時に、そんな彼を従えながら“歌”で空気を操っていく今井美樹という表現者の稀有さについて素直に感嘆させられもした。甘えもなければ、食ったり食われたりもない。信頼関係とお互いに対するリスペクトが、ふたりに極上の音楽を紡がせる結果になったのだという気がする。
午後7時11分、ステージは『She is』に収録の「Another One」を起点に転がり始めた。そう、丁寧な演奏で繊細な世界を構築しながら“歌い手のためのステージ”を淡々と体現することだけに徹するのではなく、いわばバンド然としたたたずまいを見せつけながら、躍動と起伏をもって音楽が転がり続けていったのである。これもある意味ロックンロールであるはずだ、と思った。ふと気付けばステージ上の全員が、カタチこそ違え黒のコスチュームに身を包んでいる。このスタイリッシュさもまた、ロックンロールである。
会場には、多くのB.C.メンバーたちも駆けつけていたようだ。その証拠に、曲が終わり、短い静寂が訪れるたびに、布袋の名を叫ぶ声があちこちから聞こえてくる。さすがにスタンド席からは、その表情のニュアンスまで正確に読み取ることはできなかったが、きっとステージ上の布袋自身、苦笑していたんじゃないだろうか。
開演と同時にアリーナ席はほぼ総立ちとなったが、1階、2階のスタンド席では大半のオーディエンスが着席したままの状態。ライブの一体感に酔うというよりは、質の高いコンサートを堪能するといったムードである。が、正装を強いられるようなかしこまった窮屈さに支配されているわけではない。好きな歌を、音楽を、ゆっくりと味わうのに相応しい空気がそこに充満していた。僕らがふだん観慣れている布袋のライブが沸点を超えるような熱をもったものだとすれば、これは、“ふーっ”と息を吹きかけたくなるスープやココアのようなホットさに通ずるものと形容可能かもしれない。
そんなホットさは、そこで熱のこもった演奏が繰り広げられているからこそのものでもある。そう、見どころはふたりの主人公だけではない。ステージの逆サイドで布袋とツインギターを形成するのは、重鎮、今剛。「レコーディングでは、10対4ぐらいで今さんに負けてた」と布袋は語っていたが、まさに円熟味と鋭角さの共存する究極のギタープレイがそこで体現されていた。そんな今と布袋が織り成すメロディとグルーヴの洪水のうえを、今井美樹の歌声が美しく泳いでいく。そんなさまを見せつけられたなら、大概の表現者は自信喪失に陥ることになるんじゃないだろうか。事実、僕自身、そのありさまをこんなふうにしか文字にできないことに、ちょっとした苛立ちをおぼえていたりもする。
今回のツアーで、この“あり得ないバンド”のグルーヴを支えてきたのは、『She is』のレコーディングに参加していた凄腕ミュージシャンたち。2人の究極的ギタリストに加え、Kuma原田(b) 、山木秀夫(ds/ツアー前半は鶴谷智生が参加)、小島良喜(key)、そしてコーラスの仁科薫理とプログラミング担当の岸利至というラインナップである。誰もが多忙をきわめるミュージシャンばかりなだけに、こうした顔ぶれでツアーを実践できるだけでも、実は奇跡に近いといえる。そして今井美樹は、その奇跡を“夢”という言葉で表現した。
「今日でついにファイナル。13本、いろんなところで素敵な夢を奏でてきました」
5曲目の「微笑みのひと」を歌い終えたあと、彼女はそう語った。そして、バンドサウンドでアルバム制作をしてレコーディングと同じ顔ぶれでツアーすること、“いつか一緒にやれたら”とお互いに願い続けてきた最愛のギタリストとステージを共にすることが“夢”だった、と言葉を続けた。
うっとりとするような思いで、僕はその言葉を聞いた。で、思った。武道館のステージで大きく花開いた夢は、きっとすでに、新しい何かを実らせつつあるのだろう、と。
『She is』からの楽曲中心に構成された前半。これまでの思い入れ深い楽曲たちが現在なりの視点で再現された後半。宝石をちりばめた星空のような背景に、ステージそのものが発光物体と化したかのようなまばゆい照明。記憶に残るどの場面を切り取ってみても、そのひとつひとつが素晴らしかった。
だからこそ、なのだろう。僕の好奇心と欲求は、すでに“夢のあと”へと向かっている。2005年、布袋寅泰が、そして今井美樹が、何を見せ、何を聴かせ、何を感じさせてくれることになるのか、に。 [増田勇一]
****
それにしても、アンコールの「JOHNNY CAN’T PLAY GUITAR」の今井美樹は、ロックンロールシンガーのようだった。数年前に布袋といっぱい飲みながら、次の今井アルバムはロックンロールってのもおもしろいかもしれないなあと語り合ったこともあったが、その後、美樹ちゃんは、東京国際フォーラムでのシンフォニーコンサートがありベスト盤の発売があり、そのアルバム企画アイデアは実現しなかった。
今回は『She is』というアルバムを発表しての「ドリームツアー」であったが、ステージで布袋というギタリスト、今剛というギタリスト、山木というドラム、ベースにクマ原田、プログラマーに岸というミュージシャンを得た今井美樹は、全てのジャンルの歌に対し自在なボーカリストであることを武道館を埋め尽くしたお客さんの前で証明してくれた。あの時の今井美樹R&Rという直感の片鱗は正しかったのかもしれないと感じた夜だった。
リハーサル初日に約束したとおりスタッフ全員と笑顔で握手をし武道館を後にした。黒々とした北の丸の森の上の空には夜半の十三夜の月がかかっていた。
糟谷岡崎堂
|
 |
 |
|
|